AWS Machine Learning Specialty 勉強方法 完全ロードマップ
はじめに:なぜ今、AWS Machine Learning Specialty なのか
AWS Machine Learning Specialty(以下、MLS)は、AWSクラウド上で 機械学習ワークロードを設計・構築・運用できるエンジニアであることを証明する上級資格 です。AWS公式も「AWSクラウド上で機械学習/深層学習ワークロードを2年以上運用している人」を理想的な受験者像としており、AI/ML開発者やデータサイエンティスト向けの専門認定として位置づけています。
一方で、2025年時点の公式アナウンスでは、この認定は 2026年3月31日に廃止予定 とされており、それまでに受験した合格者は取得日から3年間は有効という扱いです。
つまり、「ML Engineer Associate も含めて AWS の機械学習系資格を一気に取り切っておきたい」という人にとって、ここ1〜2年がラストチャンスに近いタイミングと言えます。
この記事では、
- そもそも Machine Learning Specialty はどんな試験なのか
- どこまで数学・統計やML理論を押さえる必要があるのか
- SageMaker や周辺サービスをどう勉強すればよいのか
- 多忙なインフラ/クラウドエンジニアでも現実的に合格できる勉強計画
を、AWS認定10個以上+MLS合格済み の著者視点で、できるだけ具体的に整理していきます。
試験の基本情報と位置づけ
試験名・バージョン
- 正式名称:AWS Certified Machine Learning – Specialty
- 試験コード:MLS-C01
- カテゴリ:Specialty(専門知識)
日本語試験ガイドでは「AWS 認定機械学習 – 専門知識」と表記されています。
試験形式・時間・料金
公式情報を整理すると、試験の仕様は次のようになっています。
- 問題形式:多肢選択(単一/複数選択)
- 試験時間:180分
- 出題数:65問前後
- スコア範囲:100〜1000点
- 合格ライン:750
- 試験料金:300 USD(日本円では約4万円+税)
- 試験方法:テストセンター or オンライン監督試験
- 試験言語:日本語・英語ほか複数言語
※MLS は 補償モデル(compensatory scoring) が採用されており、ドメインごとの足切りはありません。苦手なドメインが多少あっても、他で取り返せば合格できます。
対象者・前提スキル
試験ガイドおよび公式ページから読み解くと、AWSが想定している受験者像はおおよそ次の通りです。
- AWSクラウドで ML/Deep Learning ワークロードを 2年以上 設計・実装・運用した経験
- Pythonなどのプログラミング経験
- 基本的な ML アルゴリズムの考え方・ハイパーパラメータ最適化の経験
- データ前処理・特徴量エンジニアリング・評価指標などの基礎知識
また、AWS公式は「Specialty に挑戦する前に Associate や Professional を取得しておくと良い」と明記しています。
すでに Machine Learning Engineer Associate を持っている方 は、SageMaker や MLOps 周りはある程度カバーできているはずなので、MLS では「ML理論・データサイエンス寄りの問題」と「AWS以外の一般的な手法・ベストプラクティス」を補強するイメージで学習を進めると効率的です。
出題ドメインと配点
最新の試験ガイド(MLS-C01 v2.4)では、試験範囲は次の4ドメインに分かれています。
- Domain 1: Data Engineering(20%)
- Domain 2: Exploratory Data Analysis(EDA)(24%)
- Domain 3: Modeling(36%)
- Domain 4: Machine Learning Implementation and Operations(MLOps)(20%)
ざっくり言うと、
- D1/D2 が「データ基盤+分析準備(前処理・可視化・特徴量設計)」
- D3 が「アルゴリズム選定・学習・チューニング・評価」
- D4 が「SageMaker中心のMLパイプライン構築・本番運用」
という構造です。AWSサービスに寄りすぎず、一般的なMLの理論(バイアス・バリアンス、過学習、指標の選び方など)も広く問われる点が、他のAWS試験と大きく異なります。
著者プロフィールと合格体験記
まずは、あなたがこの記事を「自分ごと」として読めるように、私自身の状況を共有しておきます。
- 職種:大手SIer勤務のインフラ/クラウドエンジニア(2021年新卒入社)
- 普段の仕事:オンプレ〜AWSのインフラ設計・構築・運用が中心。最近は生成AIやデータ基盤案件も増加。
- 取得済み資格:
- AWS Cloud Practitioner
- AWS Solution Architect Associate / Professional
- AWS Developer Associate
- AWS CloudOps Engineer Associate
- AWS Data Engineer Associate
- AWS Machine Learning Engineer Associate
- AWS Security Specialty
- AWS Advanced Networking Specialty
- …そして AWS Machine Learning Specialty
受験前のスキル感
- クラウド:インフラ寄りならかなり自信あり(VPC設計、セキュリティ、監視など)
- 機械学習:
- G検定レベルの基礎用語は理解
- 仕事で簡単な推論APIや推薦ロジックを組んだ経験あり
- ただし、論文を読み込むようなガチ研究者ではない
- SageMaker:
- MLE Associate対策+業務で数件、トレーニング〜デプロイを経験
つまり、「インフラ+SageMaker実務はあるけれど、純粋なデータサイエンスはそこまで得意ではない」 という、わりと多くのインフラ寄りエンジニアに近い立ち位置だと思います。
勉強に使えた時間
- 平日:1〜1.5時間(帰宅後にUdemyや問題演習)
- 週末:3〜4時間(まとまったインプット+ハンズオン)
- 学習期間:約2か月半(合計70〜90時間程度)
学習のざっくりロードマップ
- 1〜2週目:ML理論の総復習
- 機械学習の教科書+図鑑系の本で、アルゴリズムと評価指標を一気に整理。
- 3〜4週目:AWS公式コンテンツで試験範囲を把握
- Skill Builder の Exam Readiness コース、公式Practice Questionを1周。
- 5〜7週目:Udemy+aws WEB問題集でアウトプット中心
- Frank Kane / Stephane Maarek のUdemyコース+日本語のWEB問題集を2周以上。
- 8〜10週目:間違えた問題の洗い出し&公式ドキュメント/Black Beltで補強
- SageMaker, Glue, Athena, Kinesis など、よく出るサービスをAWS公式ドキュメントで重点的に読み込み。
結果として、本番では 体感7割強の手応え で無事一発合格できました。難しい問題も多かったですが、「見たことのあるパターン+ML基礎の理解」で捌ける問題が大半という印象でした。
合格までの勉強時間の目安
MLSはSpecialtyの中でもかなり難易度が高い部類です。一般的な目安を、前提別に整理すると次のようなイメージになります(著者と周囲の合格者の体感ベース)。
1. 機械学習ほぼ未経験+AWSも中級レベル
- 例:SAA合格済みだが、MLはG検定レベルかそれ以下
- 目安時間:120〜180時間
- 期間イメージ:
- 平日1〜1.5h+週末4hで 3〜4か月
まずは一般的なML理論をしっかり固め、その後でAWS MLサービスに進む二段構成が必要です。
2. MLの基礎はあるが、AWSでのML経験が少ない
- 例:Python+scikit-learnでのML経験はあるが、SageMakerはほぼ未経験
- 目安時間:80〜120時間
- 期間イメージ:
- 平日1〜1.5h+週末3〜4hで 2〜3か月
この層は、Udemy+AWS公式コンテンツをうまく組み合わせれば、比較的短期間で合格圏内に到達できます。
3. Machine Learning Engineer Associate 取得済み
- 例:すでに MLE Associate 合格+業務でSageMaker利用経験あり
- 目安時間:60〜90時間
- 期間イメージ:
- 2か月前後
このケースでは「ML理論の整理+MLS独自の出題傾向への慣れ」にフォーカスするのが最も効率的です。
勉強全体戦略:3フェーズで考える
どの前提レベルであっても、ML Specialty の勉強は次の 3フェーズ構成 にすると無駄が少なくなります。
- フェーズ1:ML理論+試験全体像のインプット
- フェーズ2:AWS MLサービス&ドメイン別のインプット+軽いハンズオン
- フェーズ3:問題演習&ドメイン別の弱点つぶし
フェーズ1:ML理論+試験全体像のインプット
目的は「試験ガイドに出てくる用語がなんとなく分かる状態」にすることです。
① 公式試験ガイドをざっくり読む
- AWS公式の試験ガイド(日本語)を 通読+重要語句にマーカー。
- 初見で理解できない用語は、無理に深追いせず「後で調べるリスト」を作る程度でOK。
② 一般的な機械学習の全体像を押さえる
日本語で読みやすい入門書を1〜2冊決め打ちして、以下のポイントに集中して読みます。
- 教師あり学習/教師なし学習の違い
- 回帰/分類/クラスタリング主要アルゴリズムのイメージ
- 線形回帰、ロジスティック回帰
- 決定木、ランダムフォレスト、XGBoost
- k-meansなど
- 評価指標
- 精度・再現率・F1・AUC
- RMSE、MAE など
- バイアス・バリアンス、過学習/アンダーフィット
- 正則化(L1/L2)、ドロップアウト、Early Stopping などの代表的なテクニック
ここは「数式に完璧に強くなる」必要はありません。グラフと直感で説明できるレベル を目標にするとよいです。
③ AWS公式コンテンツで試験の雰囲気をつかむ
- AWS Skill Builder の Exam Prep Plan: AWS Certified Machine Learning – Specialty (MLS-C01 – 日本語)
- 同じく Skill Builder の 公式Practice Question Set(20問)
これらは無料で利用でき、本番に近い出題形式や難易度を事前に体験できます。最初に一度解いておくと、「どのドメインが特に弱いか」が見えてきます。
フェーズ2:AWS MLサービス&ドメイン別インプット
続いて、試験4ドメインに沿って AWSサービス+ML知識を体系的に整理します。
Domain 1:Data Engineering
主な論点
- データレイク基盤:S3+Glue+Athena+Lake Formation
- ストリーミング:Kinesis(Data Streams / Firehose / Data Analytics)
- バッチ処理:AWS Batch、Step Functions、EMR、Data Pipeline
- データ品質:欠損値、外れ値、データ漏洩(リーク)、バランスの悪いラベル
勉強のポイント
- 各サービスの役割を「パイプライン図」で理解する
- 例:
生データ(Kinesis)→ S3 → Glue ETL → S3パーティション → Athena でクエリ → SageMakerから読み込み
- 例:
- データ前処理テクニックは、scikit-learn の API とセットで覚えると理解しやすいです。
Domain 2:Exploratory Data Analysis(EDA)
主な論点
- 統計的要約(平均・分散・分位数・相関)
- 可視化(散布図・箱ひげ図・ヒストグラム)
- 次元削減(PCA t-SNEの概要)
- データの偏り(クラス不均衡、ラベルノイズ)
勉強のポイント
- 「どのグラフを見れば、どんな問題に気づけるか?」という観点で整理する
- 例えば、
- クラス不均衡 → 円グラフ・棒グラフ
- 外れ値 → 箱ひげ図
- 線形関係 → 散布図+相関係数
Domain 3:Modeling
主な論点
- アルゴリズム選定(線形モデル/ツリーモデル/DL/クラスタリングなど)
- ハイパーパラメータチューニング(グリッドサーチ、ベイズ最適化)
- モデル評価・指標選択
- バイアス・バリアンス・過学習対策
- SageMaker のトレーニング機能(組み込みアルゴリズム・BYO・Autopilot)
勉強のポイント
- 典型的なシナリオ問題に対して 「アルゴリズム+評価指標+データ前処理」をセットで答えられるようにする。
- 例:
- 疑似コード決済の不正検知 → 高再現率重視の二値分類(F1 or Recall)+ツリーモデル+クラス不均衡対策
- レコメンド → 協調フィルタリング or Factorization Machines
Domain 4:ML Implementation and Operations(MLOps)
主な論点
- SageMaker Studio/Notebook/Processing/Training/Endpoint の関係
- パイプライン構築:SageMaker Pipelines、Step Functions連携
- モデルデプロイ:リアルタイム/バッチ/Serverless Inference/Multi-model Endpoint
- モニタリング:SageMaker Model Monitor/CloudWatch/ログ・メトリクス
- セキュリティ:IAMロール、KMS暗号化、ネットワーク分離(VPCエンドポイント)
勉強のポイント
- 「一つのML案件を最初から最後までSageMakerで実装するとどうなるか」を頭の中に描けるようにする
- Black Beltや公式ハンズオンを使って、最低でも1つはエンドツーエンドのパイプラインを手を動かして構築する
フェーズ3:問題演習&弱点つぶし
Machine Learning Specialty は、問題文が長く情報量も多いため、問題演習で「出題パターン」に慣れることが非常に重要 です。
① AWS公式のPractice Question & Exam Prep Plan
- Skill Builder の公式20問セットを2〜3周
- 誤答した問題は、なぜその選択肢がダメなのかを必ず説明できるようにしておく
② Udemyコース&模擬試験
- 「AWS認定 Machine Learning – Specialty (MLS-C01) 模擬試験」などの最新Udemyコースは、
- 本番同様の模擬試験65問が2セット
- 数千円で購入できるので、1講座は投資する価値あり です。
③ 日本語の問題集・WEB問題集
- CloudLicense の「AWS WEB問題集で学習しよう」MLS対策
日本語で詳しい解説が読める のが最大のメリットです。本番は日本語試験を受ける人も多いので、日本語での言い回しに慣れておくと、時間短縮にもつながります。
2か月半で合格を目指す学習スケジュール例
1〜2週目:ML基礎の総復習+試験ガイド読破
- 平日:
- 30分:ML入門書の通読(1日1節)
- 30分〜:scikit-learnやPythonのチュートリアルで手を動かす
- 週末:
- 試験ガイドを日本語/英語で通読し、重要そうな単語に付箋
- Skill Builder のPractice Questionを1周
3〜4週目:Data Engineering & EDA 集中
- S3+Glue+Athena+Kinesis の公式ドキュメントやBlack Beltを読み、簡単なデータパイプラインを構築する
- Pandas+matplotlib/seabornで典型的なEDAグラフを描く練習
- 日本語ブログの合格体験記を1〜2本読み、試験の雰囲気を掴む
5〜6週目:Modeling & SageMaker 集中
- SageMakerのハンズオンを通して、
- 組み込みアルゴリズムでのトレーニング
- ハイパーパラメータチューニング
- Endpoint デプロイ
- Batch Transform
を一通り体験
- Udemyコースを1周(動画は1.25〜1.5倍速再生でOK)
7〜8週目:MLOps & 問題演習ラッシュ
- AWS WEB問題集を 最低2周
- 正答率70%を安定して超えない領域をリストアップし、
- 公式ドキュメント
- Black Belt
- 書籍
で集中的に復習
試験直前1週間
- 新しい教材には手を出さず、これまで間違えた問題だけをひたすら復習
- 前日は「軽めの復習+睡眠」に徹し、夜更かしして詰め込まない
よくある疑問と対策
Q1. 数学・統計はどこまで必要?
微積分をガチで計算させるような問題は出ませんが、次のレベルは押さえておきたいです。
- 概率分布(正規分布、ベルヌーイ、二項分布のイメージ)
- 期待値・分散・共分散・相関
- 損失関数のイメージ(平方和誤差・ロジスティック損失など)
- 勾配降下法の概念(「傾きに沿って少しずつ更新する」程度)
式を手計算するというよりも、図で「何が起きているか」を説明できるか が重要です。
Q2. 英語資料はどれくらい読むべき?
- 日本語だけでも合格は可能ですが、
- 新しい機能追加
- Generative AI関連のトピック
は英語ドキュメントの方が情報が早いケースが多いです。
- 少なくとも、
- SageMaker
- Bedrock/Generative AI関連(出題傾向による)
のトップページとチュートリアルを英語でざっと眺めておくと、選択肢の英文を読むときに楽になります。
Q3. Machine Learning Engineer Associate とどう違う?
AWS公式の説明を踏まえると、ざっくり次のような違いがあります。
- MLE Associate
- ロールベース(MLエンジニア/MLOps向け)
- SageMakerや周辺サービスの実装・運用にフォーカス
- ML Specialty
- データサイエンス寄り(アルゴリズム・EDA・モデリングの比重が高い)
- ML理論+Data Engineering+MLOpsを横断的に問う
両方を持っていると、「MLの理論も分かるし、AWS上での運用もできる人」としてかなり強いポジションを狙えます。
モチベーションを維持する工夫
1. まず試験日を予約する
- 2〜3か月後の土日で試験枠を押さえ、後戻りできない状況 を先に作る
- カレンダーに「MLS本番」と書いた瞬間から、学習の優先度が一気に上がります
2. 毎日のノルマを「時間」ではなく「問いの数」で決める
- 例:
- 「毎日25問解く」
- 「毎日Udemy動画を1セクション見る」
- 時間ベースよりも達成感が得やすく、疲れていても「とりあえず5問だけ」と取り組みやすくなります。
3. 学習ログを残す
- Notion・Obsidian・手帳など何でも良いので、
- その日学んだトピック
- 新しく覚えた用語
- 間違えた問題と理由
を1〜2行でメモしていくと、後で読み返したときに自信につながります。
まとめ:Machine Learning Specialty 合格チェックリスト
最後に、この記事の内容を実行する際の「チェックリスト」をまとめます。勉強の進捗確認にそのまま使ってもらえれば嬉しいです。
- AWS公式認定ページと最新の試験ガイド(MLS-C01)を確認した
- ML入門書を1〜2冊読み、主要アルゴリズムと評価指標のイメージがつかめた
- Skill Builder の Exam Readiness とPractice Questionを1周以上解いた
- S3/Glue/Athena/Kinesis/SageMaker などの主要サービスで、簡単なハンズオンを一通り完了した
- Udemyコースまたは同等の動画教材を1周し、4ドメインの全体像を把握した
- 日本語の問題集(WEB問題集)を2周以上解き、
- 総合正答率70〜80%以上
- 特に弱いドメインがあれば、公式ドキュメントで補強した
- 直前1週間は、新しい教材には手を出さず、間違えた問題と要復習トピックだけを集中的に潰した
- 「このシナリオなら、どのアルゴリズム+どの評価指標+どのAWSサービスを選ぶか」を、自分の言葉で説明できる
ここまで来れば、Machine Learning Specialty 合格はかなり現実的な射程に入っているはずです。
生成AIやMLエンジニアのニーズが急速に高まる中で、AWSのML系認定は 「実務で通用するスキルの証明」 として非常に強力な武器になります。この記事を読み終えた今が、学習を始める一番早いタイミングです。
ぜひ、まずは 試験日を1つ予約すること から動き始めてみてください。そこから逆算して、この記事のロードマップをあなたの生活リズムに合わせてアレンジしていけば、忙しいインフラ/クラウドエンジニアでも十分にMLS合格を狙えます。

